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原口徹さんの歌声

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  • 2020年4月26日
  • 読了時間: 3分

                                    片山 寛


 1980年、西南学院大学神学部の学生だったころ、私はある時期、いつも原口徹さんと一緒にいました。彼は誰からも好かれる人柄で、交友関係の広い人でしたから、彼が私と友情を結んだというよりも、私が彼の後にくっついて歩いていたのだろうと思います。

 原口さんから教わったことはたくさんあります。先ず、聖書学関係の様々な基礎的な知識は、授業でも青野太潮先生から教わったのですが、授業外で原口さんから聞くと、一段と現実味を帯びて聞こえるのでした。

荒井献、佐竹明、八木誠一、田川建三といった、当時の私にとって星座のような偉大な人々を、原口さんはICU時代に実際に知っていて、彼らの人柄まで生き生きと話してくれるのです。そのおかげで、後に私がこの先生方に直接会った時、初めてのような気がしませんでした。

 森有正という哲学者を彼は大好きで、『バビロンの流れのほとりにて』という作品の話を情熱的に語っていました。『アブラハムの生涯』を私が読んだのも、彼に教えられたからです。

『デカルトとパスカル』も彼は好きでしたが、当時の私には難しすぎて、手が出ませんでした。森有正は、「経験」という言葉の意味を深く探求した人ですが、書かれた作品にはいつも孤独の雰囲気が流れていました。

この哲学者を、原口さんがどうして好きだったのか、私にははっきりしません。

原口さんはつきあいのよい人でしたが、彼の中にも何か孤独の影のようなものがあったのかもしれないと思います。

彼の父上は、河口でアサリをとっていて事故で亡くなられたということを、森有正の話の流れで聞いた覚えがあります。

 原口さんはICUの西洋古典では、ギリシア哲学を卒論のテーマにしたということで、「ソクラテスのダイモニオン」の謎について語り始めると、一段と熱が入ったものです。

 原口さんと悦子さんの結婚式は、西南学院教会で行われました。讃美歌391(ナルドの壺ならねどささげまつるわが愛)の中を行進してゆく二人は、とても幸せそうでした。

 原口さんが若松教会の牧師になったとき、私は小倉の西南女学院短大で宗教主事をしていました。

これはいいチャンスだと思って、早速、短大で「キリスト教学」を教える非常勤講師になってくれるように、依頼をしました。

彼は快く引き受けてくれて、学生の評判も上々だったのですが、数年後に「教会の事情」で来られないことになりました。

彼は自分が勉強したことを語ることが上手でしたし、それを自身も楽しむ人でしたから、「学校の教師」に明らかに向いていました。私はとても残念に思ったものです。

 ずっと後に、直方教会で牧師をしながら、彼はもう一度西南女学院で教えることになって、これは亡くなる直前まで続けられました。

彼にとっても幸せな時間だったと私は思います。葬儀にも短大の学生たちが大勢来て、泣いていました。

 最後に書きたいのは、原口さんの歌声のことです。美しいテナーでした。黒人霊歌などをさんのベースとハモらせると、うっとりするほど美しく響くのでした。神学生時代に彼らは他の何人かと「アオリスト」というユニットを作って、時々、チャペルや大学祭のおりなどに歌ってくれました。

 それらの思い出が詰まったの神学部キャンパスも今はありません。原口徹さんも、加来始さんも天に召されました。「アオリスト」とは、過去の「一度限り」の動作を言う、ギリシア語の動詞の時制です。

しかし、私はできれば「もう一度」、原口さんたちの歌声を聞きたいものだと思います。



 
 
 

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